発声の覚書:シンギング・フォルマント
歌声には人それぞれ好みがあると思います。そうした好みを別にして物理現象としての歌声を考えると「響く声」「透る声(通る声)」の答えは「シンギング・フォルマント」にあると考えられます。フォルマントというのは聞き慣れない言葉かもしれませんが、ウィキペディアでは次のように定義されていました。
フォルマントまたはホルマント(英: formant)とは、言葉を発している人の音声のスペクトルを観察すると分かる、時間的に移動している複数のピークのこと。周波数の低い順に、第一フォルマント、第二フォルマント…というように数字を当てて呼び、それぞれF1, F2とも表記する(第0フォルマント、F0を数える場合もある)。フォルマントの周波数は声道の形状と関係し、個体差や性差もフォルマントの違いを生む原因となる。発音する音韻が同じであれば、各フォルマント周波数は近い値になる。
実際に私自身の声をスペクトル分解すると次のような感じになりました。発音は「い」で「440Hz」です。
基音以外に3,000Hz付近に大きなピークがあり、これが第3フォルマントであり、「シンギング・フォルマント」です。シンギング・フォルマントは主に鼻腔の共鳴で作られ、発している母音や高さに関係なく3,000Hz前後に現れます。少しでも発生方法が悪いと大きな声は出ても、このピークは現れなくなるか、シャープではなくなります。
実際に聞いてみると「キーン」あるいは「ツーン」と高い音が一緒に鳴っているのがわかりますが、耳障りな音ではなく基音の音と良く融け合い一定の広がりを持った声になります。この倍音域はよく反響し、人が音源の方向を認識する耳介(耳たぶ)共鳴周波数に近いため、声に立体感を与える重要な周波数帯です。
この「シンギング・フォルマント」を適時出す方法を自分なりにまとめると以下のようになります。
- 声帯の表面は液体振動である。よって喉を締め付けすぎて液体の流動を妨げてはならない。当然適度に締め付けなければ正確な音程を出すことができない。
- 舌根を緩めることにより癖のない共鳴を得ることができる。当然緩め過ぎれば言葉にすることができない。
- 第3フォルマント以上の高次フォルマントを得るために、鼻腔共鳴を失ってはならない。艶のある透る声には必要不可欠な帯域である。鼻腔共鳴を得るためには、絶えず軟口蓋付近に声を集める。
これは自分に対する覚書ですから、万人に当てはまる方法ではないかもしれません。