酒井 誠・ギタリスト Makoto Sakai

ギタリスト・酒井 誠ーMakoto Sakai。ZZLの主催者。  初心者歓迎:TSギター教室。

アコギ用ピックアップ

6.TSピックアップ・システム製品版ついに完成!

2020/05/29

さらに音質の向上と低ノイズ化を実現したTSピックアップシステムの製品版が完成しました。このページでは前回公表したものとどこが違うのか。採用したコンデンサーマイクの特徴や工夫した点をまとめてみました。

さらにコンパクトになって、電池を基板に実装しました!

基板のパーツをすべて、縦置きに、電池フォルダーも基板上に配置することによって、電池の結線も省略できるようにしました。

電池と基板電池と基板

パーツの密度がかなり上がっていますが、電池を含めすべてが手のひらに乗るくらいの小型化にすることができました。 各ピックアップは、基板上の半固定抵抗をマイナスのドライバーで簡単に調製することができます。

電池のコードから入るノイズや、結線が長いために生じる音質劣化を少なくするように心掛けました。

発光ダイオードは低消費電力、高輝度の赤色のものを使用してみました。少し明るすぎるくらいなので、今後はもう少し電流を制限しても良いと思っています。

この小さなシステムを、ギターの内部に貼り付けて使用します。貼り付ける位置がコンデンサーマイクの位置になります。

TSピックアップ・システム全体の配線図

ギター内部の配線は、電池が基板上になったので、非常にシンプルになりました。

エンドピンジャックにメインの基板から3本のみの非常にシンプルな構成です。 プラグを使うのは、マグネットピックアップだけで、あとはすべて半田で直付です。こうすることによって、接触抵抗を減らし、不意に音が出なくなるような事態を極力避けています。マグネットのピックアップのプラグはRCA端子を使うことによって取り外しを可能にすると同時に接触不良が無いようにしています。一度取り付けて調整が整えれば、あとはシールドを差し込むだけで電源が入り、即使用することができます。 3つのピックアップがミックスされたモノラル信号として取り出せますので、その後エフェクターを通すのも、ミキサーに繋ぐのも、アンプに直に繋ぐのも自由自在です。 プリアンプ回路は2段になっていて出力はラインレベルまで引き上げられています。外付けのプリアンプやポータブルミキサーによる増幅はいらないので、機材が少なくてすみます。

コンデンサーマイクについて

これまで、私は10種類以上のコンデンサーマイクユニットをギターの中に仕込み、実験してきました。 幾つか写真が残っていた。コンデンサーマイクだけでも、色々な設置の仕方があります。

大きいものから、小さいものまで・・・。取り付け方も、ブレーシングに挟むものやサウンドホールに取り付けるもの、エンドピンジャックからアームが伸びるもの、一流メーカーの小型ピンマイクまで・・・・。すでに記憶の彼方に言ってしまったものまであります。


前回説明したように、TSピックアップシステムはこれまでの既成概念を捨て、基板上に超薄型のコンデンサーマイクを採用しました。右下の黒くて丸い小さいのがコンデンサーマイクです。

このコンデンサーマイクは安いとは言え、さらに見た目がしょぼいとは言え(笑)非常に優れた性能を持っています。特徴として挙げられるのは、「小型であるゆえにハウリングに強い」「振動に強いバックエレクトレットタイプ」「高周波ノイズ削減用3.3pFキャパシタ内蔵」。周波数特性も癖が無く自然なエアー感を拾ってくれます。メーカーは公表しませんが、仕様書から周波数特性を掲載しておきます。

うーん、素晴らしすぎる。音を出してみるとナチュラルで確かに癖の無い音でとてもよい感じです。何万円もするコンデンサーマイクを買うのはもったいないです。適度なバイアス回路と、接地用のコンデンサー回路だけで本当に良い音を出してくれます。TSピックアップシステムはこのコンデンサーマイクユニットを使用しています。コンデンサーマイクをなぜギターの後ろに貼り付けるかについては、前回の説明をご覧ください。
さらに基板上に配置したことにより、効果的に音を拾うことができます。

通常、コンデンサーマイクユニットは、無指向性ですから後ろからの音も拾ってしまいます。しかし、上図のように、ガラスエポキシ基板が効果的にギター後方からの音を遮ってくれるので、事実上単一指向性の特性を持たせることができます。ガラスエポキシ基板は非常に硬い材料なので、効果的に音を遮断することができます。また、電池を基板に配置することによって、基板自体の振動を抑えることができます。 基板自体は、スポンジで固定して後ろからの振動がマイクに伝わらないように配慮しました。 これで、基板を貼るベストポジションが決まれば、エア感のある、アコースティックギターそのものの音を拾うことができます。取り付けはスポンジの裏にあるテープを剥がして貼るだけにしました。
このように、何気ないプリアンプの上に設置されたコンデンサーマイクですが、長年の経験と工夫が織り込まれています。非常にシンプルですが、そのシンプルさが良いのです。

コンタクト・ピエゾについて

TSピックアップシステムに採用されているコンタクトピエゾは、より自然な音が出るように様々な工夫か施されています。 これまで、コンタクト・ピエゾも色々試しましたが、値段が変わっても性能はそれほど変わらないというのが率直な感想です。値段よりも貼り付け位地や、貼り付け方法によってかなり音の印象が変わる部分です。多くの場合コンタクトピエゾは共振周波数が高めに取ってあり、耳障りなキンキンした高音が目立ちます。

では「共振周波数を下げた大きなコンタクト」を作れば良いのでしょうか。事はそう単純ではありません。まず共振周波数を低く作ったコンタクトは「ハウリングに弱い」です。空気の振動は低音のほうが様々な場所に回り込むため、低音によるハウリングはすこし厄介です。ですから、共振周波数を下げるというより、ピックアップ自体が特定の周波数で共振しないように工夫する必要があると思います。

まず、概観をご覧ください。実験を重ねて、最終的にこのような形になりました。

表から見ると、裏側(貼り付け面ではないほう)に少し空気が入るくらいの隙間が開いたいるのがポイントです。こうすることによって、中に入っている木材そのものの固有振動を全体的に抑えることができます。ピエゾ素子は、結晶構造になっていて、それが外部の振動によって崩れ、瞬時に戻ろうとするときに電圧が発生する素子です。ですから、ガチガチに固めてしまっては、本末転倒です。ある程度動けるスペースを設けてトップ材の歪みに反応できるようにしておくのが良いようです。隙間から中を見ると木材(スプルース材を採用しました)が挿んであるのが分かると思います。色々な材料を試しましたが、ギターにはやはり木が合うようです。面白いことに、性能の良い薄型のピエゾ素子になるとプラスチックを挟むとプラスチックぽいおとがし、金属だと金属的なキンキンした音になります。同じ木でも硬さによって少しだけ音が変わりました。ローズウッドなどの硬い木を使用したこともありましたが、音も硬くなりましたので、すこし柔らか目のスプルース材がちょうど良いようです。

昔のコンタクトピエゾは、金属で覆われたものが多かった(今でも多いですが・・・)です。恐らく強度の問題や貼り直しが利くというのが主な理由で、音質重視ではないのは確かです。音質のクレームより物理的な破損のクレームを恐れてのことだと思います。安いものになると速く製造できるので、プラスチックで覆われていたりします。最近は木やこうしたチューブで補強して、自然な音に近づけるものが主流になりつつあります。作るのに手間がかかり、張り直しは確かに難しくなりますが、音を追求する方であるならこの方法を選択したほうが良いでしょう。
コンタクトピエゾを扱った方なら分かると思いますが、コンタクトをギターに貼った後、コンタクトの上から指で押さえると、ボリュームも低音も増強されると思います。これは、ピエゾ素子の構造を考えれば理解できる現象です。指などのあまり振動しないものがピエゾ素子の裏面で固定端となり、反対側の表面がギターの振動によるによる「歪の差が大きくなるから」です。簡単に言えば、コンタクトの表と裏で、出来るだけ振動の差を作ってあげれば、ピエゾ素子の性質上、音が大きくなります。裏表一緒に振動してしまっては、歪み発生せず、音圧が取り出せなくなります。
多くのコンタクトを分解して研究しましたが、様々なメーカーでこの「差」を作るための工夫を見ることができました。ゴムで裏を覆うもの、プラスティックや木材を加工したものです。しかし、音を大きくするためのこうした工夫が仇になることもありました。音は大きくなりますが、バランスが悪くなるのです。 一昔前のピックアップは、「音量」を上げるのに主眼が置かれていたようですが、最近のコンタクトは「音質」を重視しています。S/N比さえ確保できれば音量は電気的に後からどうにでもなるからです。TSピックアップシステムも、早々とプリアンプによってゲインを上げ、音質に力を入れました。 コンタクトピエゾの理論は少し分かりづらい人もいるかもしれません。簡単に言うと「金属っぽい音がする」のでそれを「できるだけ木の音」にする工夫が必要ということです。
TSピックアップシステムに採用されている、ピエゾ素子は、素子自体は一般的なものではありますが、木の台座とともに全体を熱収縮チューブで覆うことにより、高価なコンタクトピックアップ以上の音質を得ることができたと思います。実際このコンタクトで拾った音は、それだけでも十分と言えるくらいの音質になりました。

ついに完成!

いろいろ述べてきましたが、こうした経験を生かしながら、ついに完成したのが「TSピックアップシステム」です。一つ一つ手で作っていますので、量産はできませんが、多くの方に使っていただきたいという思いで一杯です。評判がよければ、基板をエッチングしようと思っています。

長年どの市販のピックアップシステムでも満足できなかった私が、やっと自分で納得できる音を出すことができました。決して見た目で判断してはいけません(笑)。「理想のピックアップを求めて」というテーマで長年研究してきましたが、この「TSピックアップシステム」で一段落です。今後はパーツのマイナーチェンジは行われるかもしれませんが、当分はこのシステムで行くつもりです。 実は、オペアンプの組合せもかなり時間をかけて選定しています。説明が長くなりそうなので省きますが、高価なオペアンプが必ずしもアコギの増幅に向いているとは限らないことを今は実感しています。
このピックアップシステムをぜひ試してみてください。

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