酒井 誠・ギタリスト Makoto Sakai

ギタリスト・酒井 誠ーMakoto Sakai。ZZLの主催者。  初心者歓迎:TSギター教室。

アコギ用ピックアップ

9.ちょっとしたハウリング対策

2020/06/02

ピックアップシステムに、少しだけハウリング対策を施してみました。
ギターの中にどのような定常波があるのかがだんだん分かってきました!

TSピックアップシステムは、コンデンサ・マイクの入力に対して、コンタクトやマグネットが逆相になるように設計されています。ですから、コンタクトマイクの入力とマグネットの入力が程よく入っていれば、ハウリングに強くなります。特にマグネットの基音に対しては、コンデンサーマイクの入力がうまく逆相になり、ハウリングに強くなるようにセッティングすることができます。しかし、システム2では、マグネットを使いませんし、システム3でも音質を重視するとどうしてもコンデンサ・マイクよりの音作りになってしまうと思います。そうするととたんにハウリングの問題が出てきてしまいます。また、逆相になっているといっても、取り付け位置が少しずれてしまうと、倍音域での共振が起こり、ハウリングを起こすこともあり得ます。 そこでまず以下のような簡単なコンデンサ・マイクのバイアス回路をつくり、コンデンサ・マイクでハウリングの原因となる定常波の位置を探ることにしました。

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ハウリングしやすいポイントにコンデンサ・マイクを置くと、そこが定常波の腹の部分ということになります。ギターによって多少の相違はあるかもしれませんが、実際に調べてみた定常波の位置は以下の部分だと予想されます。

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これ以外にも多々存在すると思われますが、主な定常波は下記の通りです。

  1. ネックブロックと、エンドブロックの間の最も長い範囲。
  2. ブレイシングが低く削られている部分。
  3. 上部の空洞が広い部分。
  4. 下部の空洞の広い部分。

1の部分に引っかかると、確実にハウリングを起こすようになります、多くの周波数帯の定常波が存在するようです。2の部分はブレイシングの間を通っていて、幅は長くなりますが、比較的高音部の定常波が点在しています。3の部分は上部の空洞部分ですから、中高音部の定常波です。4の部分は低音部の定常波があるようです。

 

これらの部分にコンデンサ・マイクが来ると、ハウリングが起こりやすくなります。同時に非常にやっかいな代物であるっことが分かりました。通常の宅録やちょっとした数人の集まりでは、TSピックアップシステムでハウリングが問題になることはほとんどありませんでした。しかし、会場が少し大きくなると、ちょっとした定常波でもハウリングに結びつきます。しかもそのハウリングする周波数は特定不能で、当たり前ですが鳴りよ良いギターほど様々な周波数帯でハウリングを起こします。 1の部分に関しては、バック・ブレイシングの下に来るようにコンデンサ・マイクを配置すれば比較的避けられるようです。ここで、注目してほしいのは赤の矢印で書かれた「定常波が最も少ないベクトル」です。この方向だけにコンデンサ・マイクの指向性を向けることができれば、ハウリングに強くなるはずです。
しかし、これまでTSピックアップは、無指向性のコンデンサ・マイクを使っているため、ベクトル方向の指向性を持たせることはできませんでした。ほとんど例外なくコンデンサ・マイクのカプセルは無指向性で、マウント方法やモールド方法にって指向性を持たせるのが普通です。それで無指向性を指向性のあるものへ改造すべく幾つか試みてみました。まず、下記のようなパイプを切断して、にコンデンサ・マイクを入れ、指向性の変化を調べてみました。

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結論から言うと、こうした方法で指向性を鋭くすることはできませんでした。パイプの後ろに小さな穴を空けて、音が遅れて入ってくるように改造して、正面からの信号と打ち消すように物理的に試みたのですが、指向性が少し変わるだけで、大した効果が無いことが分かりました。超指向性のマイクのように長いパイプを改造すれば何とかなるかもしれませんが、計算するとパイプの長さが50cm以上必要になり、ギターの中に入れるには難しいです。元々指向性を鋭くするのは、遠くにある音を拾うために必要な方法なので、ピックアップのように音源そのものの中に入れるものに関しては、ほとんど機能しないようです。しばらく考えた末、指向性を作り出すよりも、後ろからの音を物理的に遮断してしまえば、結果としてベクトルを持たせることができると考えました。 これは、比較的良好な結果が得られました。下の写真をご覧ください。

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左側がこれまでのシステムのコンデンサ・マイク部分です。下方向の音は基板である程度遮ることができますが、ほとんどの定常波に関しては無防備でした。右側が今回改良したコンデンサ・マイク部分です。基板に対して垂直に配置し、背後を接着剤で塗り固めて音を遮断しています。これにより、定常波を拾いにくいベクトル方向へ指向性を向けることができました。この方向ですと、定常波だけでなく、サウンドホールからダイレクトに入ってくる音に関してもある程度強くなるようです。
今後TSピックアップシステムは、見た目は悪いですが、この方法で行くことにします。
大きなホールや反響しやすい会場に関しては、こんな方法もあります。音質と音量のバランスを考えながら調整すればこの方法も良いかも知れません。
余談ですが、一昔前、ピックアップではなくマイクで音を拾うのが当たり前の時代、500人規模のホールでステージでマイク録りでコンサートをしたことがありますが、そのとき少しでもモニタスピーカーの音を入れるとハウリングに悩まされました。PAの方にお願いして、モニタから一切音を出さないようにしてもらったところ、うまく行きました。モニタ無しで歌ったり、ギターを演奏するのは大きなホールになるほど最初は大変ですが、馴れてくると無しのほうが、会場の響きや感動が手に取るように分かり、ステージと客席との一体感のようなものが感じられます。 この経験は、後のステージに生かされたと思います。多くの場合、「自分が」気持ちよく演奏できるような音量で環境でギターを弾くと、聞いているお客さんは「結構大きな音を聞かされる」ことになります。それで、演奏するときにはスピーカーから出てくる音が自分には「ほんの少し」聞こえるがちょうどよいです。一旦人が大きな音に慣らされると、繊細な音が失われます。

ピックアップの歴史はまだまだ浅いです。初期のピックアップはバーカスベリーのコンタクトピックアップだったと思います。その後、大音量がもてはやされ、アンダーサドル型のピエゾや、マグネットをアコースティックギターに内蔵するに至りました。バンドの中でアコギが音量を稼がなければ、ドラムやエレキに負けてしまうからです。オベーションのギターもそうした傾向が強いギターでした。生音とはほど遠い音でしたが、その当時としては多くのアーティスト達がその音を採用しました。今でも、その傾向があります。しかし、一部のソロギタリストたちは、再び「音量よりも音質である」と考えるようになりました。

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